逃げるは恥だが役に立つ

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今日は、私と同じ髪型で(笑)、予備校の世界史講師である神野正史さんコラムからヒントをいただいた記事です。

 

男子たるもの、一歩敷居を跨がば七人の敵、これあり!

 

最近の社会情勢が当てはまるかどうかは別にして、一度は聞いたことがある言葉でしょう。

男子に限らず女子であっても戦わざるを得ない状況に置かれることがあります。

このとき、敗れ続ける者は没落しますが、では勝ち続ければいいのかと言えば、事はそう単純でもなさそうです。

 

かつて中国では項羽(紀元前232年~紀元前202年)が連戦連勝だったものの、最後は破滅しました。

中国と言えば孫子の兵法が有名ですが、そこには「百戦百勝は善の善なる者に非ざるなり(百戦百勝は最善の方策ではない)」とあります。

あまりに勝ち続けると結局は我が身を亡ぼす結果となります。

最終的勝利を手に入れるためには、ただ勝てばよいのではなく、勝つときには「勝ち方」が、また敗けることがあっても「敗け方」が大切だということです。

ただ、「勝ち方」といっても「正々堂々と戦え」という意味でもありません。

16世紀に現れたイラン王朝・サファヴィー朝の初代皇帝イスマーイール1世は、兄の死によってわずか7歳でサファヴィー教団を受け継ぎ、12歳で蜂起し、14歳で即位した人物で、とにかく幼い皇帝でした。

当然、現実に建国へこぎつけたのはその家臣たちであり、皇帝は神輿(みこし)にすぎませんでした。

まだ物心つくかつかないかのころから家臣たちになだめすかされ、おだてられてきたイスマーイールは、自分が救世主であり自分に不可能はないと信じて疑わなくなります。

そんなとき、冷酷者の異名を取るセリム1世率いるオスマン帝国が近代的な砲兵を含めて20万の大軍で攻めてきました。

サファヴィー朝は騎兵のみでわずかに1万2000。

ここでサファヴィー朝の名将ウスタージャルー将軍が、長征で疲弊しているオスマン帝国軍に対し、翌日の決戦前に夜襲をかけることを進言します。

ところが、イスマーイール1世は救世主である自分が正々堂々と戦えばかならず勝つと、はこの名案を却下。

しかし、正々堂々といえば聞こえはよいものの、裏を返せば無為無策。

戦端が切られるや、サファヴィー朝軍は総崩れし、一時は滅亡寸前にまで追い込まれることになります。

 

では、多勢に無勢のときにはどのように戦えばよいのでしょうか。

それは戦わないことです。

 

先のサファヴィー朝では、2代皇帝となったタフマースブ1世が、とにかくオスマン帝国との決戦を避けることに徹します。

オスマン軍が攻めてくれば、戦わずして逃げる! 恥も外聞もなく逃げる! とにかく「勝てぬ戦」はしない!

オスマン帝国軍は、戦ってくれない敵を前にして戦勝を得ることもできず、兵站(補給線)も伸びきってしまい補給もままならず、異郷の地で長引く行軍に兵の士気は下がり続けます。

そこで、仕方なく撤退しはじめると、その背後を突いてサファヴィー軍が討って出まる。

後ろを向いた軍ほど弱いものはありませんから、オスマン帝国はこうしたサファヴィー朝の戦い方にほとほと困り果ててしまいます。

これぞ、ローマではハンニバル軍に対してファビウス将軍が実行し、近代ヨーロッパではナポレオン軍に対してロシア軍が実行したことで有名な「耐忍戦術」です。

 

しかし、こうした「耐忍戦術」すら通用しないほど、圧倒的力の差がある敵の場合にはどうすればよいのでしょう?

どう足掻(あが)いても勝てそうもない時は、「白旗」を振ることも視野に入れる──。

亡びてしまえばそれまでですが、どんな屈辱を受けようとも最終的に亡びなければいつかは逆転のチャンスも訪れます。

 

日本の島津氏は関ヶ原の戦いで敗れました。

しかしながら、帰国後ただちに白旗を振りつつ、徳川との駆引外交に東奔西走し、西軍で唯一処分(処刑・改易・減封など)なく本領安堵を勝ち取りました。

以降、幕藩体制の下で睨まれながら、ジッと耐え続けること250年。
倒幕運動で志士たちが立ちあがるや、その先頭となって徳川幕府を倒し、明治政府の中枢を担うことになります。

「勝負」というものは、“最終的に生き残った者の勝ち”です。

途中の“一時的な勝利”のために“永久に亡び”たのでは本末顚倒です。

 

勝てるならばよし、勝てそうもなければ生き残るために全力で戦いを避ける。

どうしても戦いを避けられなくなったときには逃げる。

逃げきれなければ降伏することすら厭わない。

恥をかこうが顔に泥を塗られようが、生き残って再起・形勢逆転のチャンスを虎視眈々と待つ。

これをできる者が“最終的勝者”となることを歴史が教えてくれています。

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